第4回 佐上 浩三さん

「サラリーマン生活30数年、東京と関西(大阪、滋賀)を半分づつ経験しました。大学時代には混声合唱団に入り、北海道演奏公演を行うなど勉強以上に熱中しました。社会人になってからはそうもいかず、もっぱらLPレコードを聴いていましたが、狭い社宅の中に長さ2m以上ものホーンスピーカーを作り、女房には随分迷惑をかけてしまいました。50歳のとき東京に転勤となってしまったためホーンは持ってこれず、次は楽器を作ろうと思い立ったのです。55歳の時、チェロを購入し勝田聡一氏についてレッスンを始めました。楽器を作るためには弾けなければいけないと思ったのです。でも会社から帰ったら先ず一杯となってしまって、上達はとても無理でしたが、楽器を弾くのは大好きでした」
佐上さんの音楽好きは天性のようで、4歳のとき、カルーソの歌うオーソレミオを涙を流して聞いていたとのことです。

「60歳できっぱりと定年し、尾崎行夫氏について製作の勉強を始めたわけです。氏はG.モラッシ氏の直弟子で、ユーモアのあるとてもよい方でした。細かいことは言わず、線の美しさ、全体バランスの美しさをもっぱら教えてくれました。初作品ができたときには勝田先生が尾崎工房にわざわざ来て下さり、チェロスタイルで弾いてくれました。その時の感激は今も忘れられません。その後、尾崎氏は故郷に帰られることになり3年間しか指導を受けられませんでしたが、氏のお世話で、モラッシの最高級材を一生分仕入れられたことは本当にラッキーでした。退職金はこの材料代と蓼科の夏季工房代でほとんどパァだったと思います」
佐上さんの楽器作りは実に十年越しの計画であったことが解る。まず目標を決め、実現させるための計画を立てる。そして行動に移ると、わき目もふらずそれに邁進するのである。「毎日9時間、製作に没頭した。チェロを削るのは体力の限界に挑戦するのと同じで、夕方には倒れ込んでしまうほどでした。根を詰めて体を壊したこともあった、でも製作をやめようと思ったことはなかった。努力した分だけそれが作品に現れる。形や寸法だけではない何かが音に現れる気がする。楽器製作に巡り合えた運命に感謝している」と語る。
楽器製作で心がけていることは?とお聞きすると、「私の人生のモットーはチャレンジ。新しいモデルの依頼があると嬉しいのです。製作モデルはデルジェスが基本で、今までイザイ、ビュータン、コバンスキーを作ったが、次はハイフェッツモデルを製作する予定です。それぞれのモデルとペグ、テールピースの材質との相性も調べてみたい」と熱く語られた。

佐上さんは現在81歳、今までに作ったバイオリンは50数台、ビオラ17台、チェロ5台。これら佐上作品による室内楽が大阪と東京で開催され大きな反響を呼んだ。作品は庄司紗矢香さん、細谷真理さん、芸大生などに愛用されている。

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